これは受験番組ですか? 『第28回全国高等学校クイズ選手権』感想


 『全国高等学校クイズ選手権』、通称高校生クイズは、1983年に始まった日本テレビのクイズ番組です。
 『アメリカ横断ウルトラクイズ』の弟分として、ウルトラクイズに出場資格のない高校生のためのクイズ番組が作られました。それがこの番組です。


 長くこの番組から遠ざかっていましたが、『クイズマジックアカデミー』シリーズにはまった去年から、また見始めました。

 今年は「知力」メインの大会になるらしい。そう聞かされても、余り深く考えずにテレビに向かったのですが…。

 えーと。これは受験番組ですか?。東大合格率がどうのとか、京大進学のエリートとか、そんな話ばっかりなんですが。劣等感をもりもり刺激してくれる構成です。
 東大進学が全てというなら、もうクイズ番組では無いですよ。もっとも、東京大学クイズ研究会は、普通のクイズに飽きて新奇なクイズの開発に熱心らしく、やはり頭のいい人は違うなと思わされたりもします。

 私の事はともかく、全国から都道府県代表+ネット予選勝ち抜けの50校が参加したのに、1回戦から「超名門(QMAネタ?)」「東大」の連呼。それ以外でまともに映し出されたのは、漢検1級の回答者が本領を発揮した、多治見西高校くらいでしょうか。早稲田高、慶応高、ラサール高といった「名門校」ばかりが放映され、あと一歩で惜しくも敗れたその他の高校が無視されたのは気の毒でした。
 この1回戦、50問には7時間以上を費やしたと司会のラルフ鈴木氏の発言。敗北即失格はいいとして、休憩を挟んだにしても敗者には徒労感ばかり残る長期戦だったと思います。
 もちろん、悪いのは「名門校」の参加者ではなく、日テレのアホ編集です。クイズ番組なら、東大合格率がどうのというのではなく、あくまでもクイズの中で知力を際立たせるべきなのです。
 しかも問題読み上げが司会の鈴木氏じゃねぇ! 司会が問題を読むのがこの番組じゃなかったの? ますます違和感爆発(結局鈴木氏が読んだのは決勝だけ)。

 1回戦で一気にベスト8を絞り、2回戦は1対1超難問ラリークイズ(一問多答の回答を交互に行い、先に間違えた方が負け)+早押しクイズ。ここでまたくどい東大の連呼。灘と開成どっちの頭がいい? だから受験番組じゃ無いって!
 ラリーはともかく、早押しは軒並み早く、よく訓練されたクイズ廃人……もとい、プレイヤーなのだと実感出来ます。

 準決勝は文章題。ちょっと待て、FBIの人の問題は何よ!? 問題が英語で出されるので英語力が試されるという話ですが、視聴者にはまともに内容が示されません。問題が視聴者にわからないクイズ番組は前代未聞です。それで答えだけ「空港」と見せられても。
 たとえ理解出来なくても、視聴者にも一緒に考えさせ、解説でフォローする。それがクイズ番組の醍醐味のはず。観ている側は置いてきぼりです。

 決勝は5ポイント先取。10じゃないの!? とまた驚き。5対3で東海高校が優勝した、のですが。


 1回戦で答えが「ポロロッカ」の問題が出た時点で過去のクイズ番組ネタありだなとは思っていました(西村顕治氏が1992年、「第6回史上最強のクイズ王決定戦」で見せた回答。YouTubeより)。

 北川宣浩氏(サイトには世話になっているのになぜか名前が出てこない。困った物です)や大前剛志氏佐々木繁樹氏などによれば、やはり過去問のオンパレードだったようです。

 超早押しを「ヤラセではないか?」と思った方もいたようですが、早押し自体はインチキではなく、早押しクイズの「攻略法」を研究して、過去の問題を暗記している人ならかなりの程度何とかなります。第13回ウルトラクイズ優勝者の長戸勇人著『クイズは創造力<理論篇>』にそうした手法が詳しく解説されています。
 このように種はあるのですが、何も知らなければヤラセを疑うのも無理はないでしょう。
 番組では長戸氏や永田喜彰氏(第13回ウルトラ準優勝、『クイズ$ミリオネア』1000万円獲得など。『クイズマジックアカデミー』シリーズや『Answer×Answer』も遊んでいるようですが、残念ながら未対戦)がコメントしていましたが、ちらっと出て来ただけで出演意義がよくわかりません。他にも頭がいいと言われる芸能人が出演していましたが、ほとんど蛇足でした。他局のクイズ番組を多分に意識していたのは間違い無いですが(「一番難しいクイズ番組です」と何度も言わせていた)。

 また、開成高参加者の後輩がBlogで不満をぶちまけていましたが(削除済み…いや間違い、今もあります。『開成クイズ研究会公式ブログ』「俺の怒りのハケ口的記事 2008-09-05 21:31:45」参照)、決勝は3ラウンド制で2ラウンド先取、1ラウンド5ポイントが正しく、東海が1・3を、開成が2を取ったが、誤答シーンが編集で削られ、あたかも接戦のように演出されていたそうです(放映されたのは最終ラウンドのみ)。
 「アメリカ横断ウルトラクイズ」でも同様の編集は指摘されていますし、高校生クイズは放映が1日だけなので、さらに編集が入っているのは予想が付きます。
 一問の誤答が精神的重圧になることを考えれば(実際はさらに誤答続きだったらしい)、見栄えは悪くてもそういう場面も含めて放送して欲しい、という開成側の参加者の態度は立派な物です。
 削除自体は時間の都合もあり仕方がないと思いますが、そうするくらいなら素直に10ポイント先取にして、東大合格率云々の画像を削ればまともに決勝を放映出来たはずです。お陰で、決勝だけふぬけに見えてしまいました。


 結局、参加者である生徒個人よりも、「超名門校」の看板ばかりが目立った放送でした。名門校だから凄いんじゃない、その参加者が活躍するから凄いんです。

 情けない話ですが、一応問題が示された数学の問題、私には全く理解出来ませんでした。ネットで解説を見ましたが、そもそもCだの何だのの記号の意味が理解出来ません。解説を見ても「そうか、わかった!」と思えないのが歯がゆいし、情けない…。
 しかし、解説なしに答えだけという日テレの編集は論外です。問題と解説を見てこそ、正解出来たのは凄いと素直に称賛出来るのに、それさえ日テレはさせてくれません。
 こういうのを解ける方は、本当に凄いと思います。英語も苦手ですが、理数系の数式の理解の出来無さは、英語とは異次元の絶望的です。
 だから、記号や数式をすらすら使いこなす方は尊敬に値します。羨ましいです。
 だからこそ、「超名門」「東大」のレッテルに頼らず、参加者の実力を浮き彫りにして欲しかった。
 受験番組としか言いようのない内容、本選に出ていながら大多数の高校は無視。これでは、ほとんどの高校生にとって絶望しか残りません。


 ところが。ビデオリサーチ調査の視聴率は14.0%。
 2003年10%、2004年12.5%、2005年9.7%、2006年13.9%、2007年8.6%。
 過去5年間に比べれば、もっとも高視聴率でした。
 これまでは21時開始なのが19時に移ったのも視聴率が上がった理由でしょうが、「受験番組」として面白がった視聴者は、少なからずいたようです。少なくとも、来年は今の路線が続くのでしょう。
 全盛期は参加者が20万を超えた高校生クイズでしたが、今年は約2万。来年はさらに減ること請け合いです。
 QMAを始めてから、思い出したように観るのを再開した高校生クイズでしたが…。
 ウルトラクイズの欠片をそこに観たのが、間違いだったのでしょうか。

管理人 上野 良樹       

2008年9月11日      


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