○今回も、コミックマーケット事後の反省会質問内容とコミックマーケット準備会側(共同代表の市川孝一氏)の回答を先に載せます。
○うーん、進歩がない! また聞きたいことの半分も聞けないのに、時間ばかり取ってしまいました。反省。
○要旨では、例によって私が詰まった部分は消し、私の責任で文意を変えない範囲で手直ししてあります。記憶違いなどございましたら、教えていただければ幸いです。
○このことに限らず、反省会の内容を公開する場合は、各自の意見を入れて欲しいとの事でしたので、適宜感想や補足を加筆します。
問:Dr.モローさんに赤福の実態をネタにされた(C73カタログ参照)地元民です。
さて、今年の2月に日教組の集会(教育研究全国集会)がプリンスホテル(グランドプリンスホテル高輪)に会場貸しを(右翼の街宣車で周囲に迷惑が掛かるという理由で)キャンセルされ、中止に追い込まれた事件がありました。
日教組と聞くと、ざまあ見ろと思われるご主人様(「コミケにお客様無し=みんなご主人様」という洒落)も居られるかも知れません。
しかし、日教組の集会は、3000人規模と聞いています(正しくは1889人。コミケットは3日間で公称55万人。実数は更に多いといわれている)。それでも2ヶ月前に取り消されると、(代わりの会場を取れずに)こういう事になってしまう。更に、東京で開催する必要はない、地方で開けばいいではないかと言い出す手合い(『正論』5月号、安藤慶太氏)もいます。こういうのを捨てておけば、コミケットも東京ビッグサイトで開く必要はない云々と、(この規模になるともはや代替会場はほとんど無いという)実情も知らずに言い立てられかねません。
私にとっては幸いにも歴史的事実ですが、コミケットも会場を転々とした時期がありました。
表現の自由、集会の自由、結社の自由は三位一体です。コミケットも集会であり、今回の事件もかかわりの…(「関係ないだろ」「ないない」などと呼ぶ者あり)あることだと思います。
この事件についての、コミケットとしての見解をお聞かせ願います。
答(市川孝一氏):(茶畑氏「橋本充電中 コミックマーケットレポート C74 3日目反省会:2008-08-17」より引用させていただきます。()内は私が聞いた部分で補足)コミケも過去にいろいろあった。幕張を断られたときは緊急アピールを出したりして、なんとか晴海に戻れた。今回も爆弾騒ぎなどで「中止しませんか?どうですか?」と言われたが「いや、やります」といった。何か起きたらあなたたちの責任ですよといわれ、責任取りますよ、3人全員で取ると言った。
(我々は、それこそ日教組どころではない闘いをしてきた。)
会場と中止するかしないかの話し合いをしていたときに、会場から「もしここで一個爆弾が見つかったら中止するんですか」といわれたが、「いややりますよ、一個見つかったらそれで終わりだから」と言った。我々も中止という言葉は出さない。ずっと(永久に)続けていくものだと思っている(拍手)。55万人の参加者を裏切るようなことはしない。会場と粘り強い話し合いをしていく。今回の一件はずいぶん考えさせられた。10年前の発火物事件以来にどっと疲れた。
○2月の事件なのにレジュメを用意しなかった時点で私の怠慢は明らかです、済みません。事前に紙に書いておかないと、聞きたいことも飛ばしてしまいます。特に、『正論』の記事は本来名指しして置く予定だったので痛恨でした。
○「『左翼』色が強いと判断され退かれないか」という恐れから、やや発言があいまいになってしまったのも事実です。わざと日教組を茶化したのもそういう心理です。我ながら情けない態度でした。ごめんなさい。
○また、質問の最初にどういう参加者かを名乗るのですが、上がって飛ばしてしまいました。「2日目一般、3日目サークル参加」です。
○日教組の事件を持ち出したのは、一つにはどう見てもプリンスホテルの応対が不条理なのに、プリンスホテルの肩を持つ者が大量にいたからです(詳しくは『盗聴法について考える』内「日教組とプリンスホテル〜闇に葬られる集会の自由」を御覧下さい)。「日教組は悪だ。だからどんな汚い手を使っても正義なんだ」式の主張がいかに多かったか。
○日教組と同人誌即売会。方向性は全く違いますが、別の意味で「怪しい」集会には違いありません。しかも、日教組は叩かれると言っても社会的認知もある組織ですから、マスコミにも大々的に報じられました。C74カタログ「全国同人誌即売会連絡会勉強会レポート」でも触れられていましたが、この6月、山梨県北杜市「山梨県立フラワーセンター ハイジの村」のコスプレ大会が、「子供からお年寄りまで花を楽しむ施設に、若者が大挙して集まるイベントはいかがなものか」という苦情電話一本で潰されてしまった事件がありました。奇しくも、3000人規模の集会でした。
C74カタログで山口貴士弁護士が指摘しているように、地方自治法二百四十四条で「普通地方公共団体(次条第三項に規定する指定管理者を含む。次項において同じ。)は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」と定めています。先のコスプレ大会中止事件も明らかに本項に反します。
○東京ビッグサイトは公共施設ではありませんが、しかしその巨大さから、代わりとなる施設がほとんど無い特性があります。
○プリンスホテルを傘下に置く、西武ホールデイングスの後藤高志社長の主張「辻広雅文(ダイヤモンド社論説委員)【第18回】 2008年03月13日 西武・後藤社長が日教組会場使用拒否への批判に反論する」。プリンスホテルの「客に迷惑(日教組だって客なんですが)」論がまかり通るなら、全ての集会は簡単に潰せます。受験生を盾にとって、妨害した側ではなく日教組を責めるとは何という恥知らずでしょうか。しかも、この口実さえ地図を見ると怪しい物です(AML、futei氏「[AML 18087] グランドプリンスホテル新高輪の使用拒否理由、欺瞞の口実」、GoogleMAP「東京都港区高輪3丁目13−1」)。
○法律上、日教組に文句の付けようはありません(「迷惑」を掛けるのは日教組ではなく右翼団体である!)。理由にならない理由なのです。しかも、プリンスホテルは取引先に「賀詞交換会」を開催させ、日教組が利用出来なくしたという陰湿さ(「2008/02/07 プリンスホテルによる日教組会場使用拒否・司法判断無視事件(上)〜解約有効の主張は無理なのでは?」、『讀賣新聞』2月3日号「ホテル、日教組の使用拒否 街宣恐れ 司法も無視」)。
○辻広氏の記事も最低ですが、『正論』安藤氏の記事も悪質です。安藤氏は、日教組が訴訟に打って出た事を、このように非難してします。
ここで取り上げたいのは好んで法廷戦に持ち込む彼らの発想である。法廷闘争が持つ相手への威嚇効果を最大限に利用して要求を突きつけ、相手に屈服を迫っていく。「今回の件を許さず、追及し続けることが最大の抑止効果になる」といった考えが根底にあるとしか思えないのである。教研集会に対してプリンスホテルは何らの政治的意図や悪意も持ち合わせてはいなかった。「集会の自由」を蹂躙する意図があったかのように決めつけているのは日教組なのである。こうしたやり方こそ、気にくわないからと言って高圧的に相手を黙らせる、子どもたちの『イジメ』に通じるのではないかということである。
安藤氏の「イジメ」という表現は、日教組が集会妨害を「気にくわないからと理屈抜きに高圧的な態度で相手を黙らせるやり方は子どもたちの『イジメ』にも共通しています。」と批判した事への意趣返しです。
なるほど、「訴訟沙汰」は怪しからんという。プリンスホテルが理不尽にも契約を踏みにじったのに、公に争う事を悪であるかのように書いています。
『正論』の産經新聞社が日教組を強く批判している事は周知の事実です。そういった政治的思惑を、上手に一般論にすり替えています。
○これが通じるなら、東京ビッグサイトが「癌研病院に迷惑だ」「癌患者にとって一生の問題だ」「入場待機列が通行の邪魔だ」などと言い出せば簡単にコミケットを潰せます。もちろん、コミケットとしても、私たち参加者としても、最大限事故の無いよう努力しています。しかし、参加者がどれだけ努力しても、集会に対して嫌がらせを公言する者がいれば、それを口実に集会を潰せてしまう現実。
さらに、司法に訴える事を悪であるかのように喧伝する事で、仮にコミケットが徹底抗戦するなら、抗戦それ自体を中傷する。被害者は「泣き寝入りしろ」というのが彼等の主張の帰結です。
○要するに気に入らない集会を潰すのが先で、理屈は後から貨車で付いて来るとしか言いようがありません。「訴訟沙汰」を嫌悪するのは、理詰めで負けるのがわかりきっているからでしょう。
○このような理不尽な言説が、ネットだけでなくマスコミにはびこり、プリンスホテルの所業が見過ごされるならば、ビッグサイトが同じ所業に出ても見殺しにされるのではないかという危機感がありました。まして、かつてのコミケットや同人誌即売会・コスプレ大会、その他の集会への妨害は、これより遥かに小さい扱いでしか無いのです。
○私が質問したのは、こうした現状から、コミケットとして理不尽さへのアピールを出すべきと思ったのと、いざという時コミケットは「世間」やマスコミの圧力に抗する事が出来るのかと思ったからです。
○しかし、「コミケットは永久に続きます」という回答は、御主人様(笑)の一人として、心強く思いました。
○確かに、市川共同代表が触れたように、同人誌即売会は日教組より遥かに劣悪な環境を乗り切って来ました。公共施設でも、しばしば貸し出しを拒否されるという仕打ちを受けて来ました。それに比べれば、日教組はまだ甘いといえるかも知れません。
○もちろん、会場の利用についてはしっかりマナーを守りつつ、いざという時は「御主人様」として、出来るだけの事はしようと改めて思いました。
○ちなみに、本筋から外れますが、会場では回答にお礼を述べた後、「今後大晦日開催の年は、正月は深夜列車で伊勢参拝へお越し下さい」と宣伝して終わりました。
○以上、お読みいただきありがとうございました。
管理人 急行デューン号(K・MURASAME/上野 良樹)
2008年9月20日