我時來れり!!         宮武外骨

本誌編輯の體裁、記事の内容を見て、從来他の雜誌に馴れたる諸氏は、之を亂雜とし、卑俗とし、淺薄とし、奇異なりとするであらうが、そこが本誌編輯者の性癖であり、見識であり、短所であり、特色であると認められたい、相類した雜誌が数多くある中に於いて、漫然他を模倣する雜誌を発行したのでは、假令幾分の長所があるにしても、否、彼等に優るものであるにしても、猿マネは何処までも猿マネであって、権威なく、信用なく、存立の意義なきものに帰着する、ワタシはそれが嫌いで、ヨシ多数の讀者を得ず、廃刊の悲境に陥っても構わない、ワタシはワタシ式の雜誌を発行したいのが、ワタシの堅い自己信念である
だが、茲に一言したいのは、ワタシは例の雜誌発行の道楽心に駆られて、本誌を発行するのでは無いという一事である、事実ワタシは従来種々の雜誌を発行した、また今後も生命のある限りは種々の奇な雜誌を発行するであろうが、今度の本誌はソンナ道楽事ではない
ワタシの幾多の雜誌を続けて愛讀された方御は御存知でせうが、ワタシは今から満三十年前に、雜誌記事の爲官僚の犠牲にされて長い間入獄した、またその後も三度囹圄の人となつた、そして其の記事はいづれも官僚に反抗し官僚の罪悪に痛撃を加へた爲であつた、それから先年ありもしない金を掻き集めて、官僚攻撃を主とせし日刊新聞を發行した事もあつた、それも官僚の無法迫害で間もなく廢刊した、其の後今日に至るまでも、一日として官僚を敵視する感念の去つた事は無い、ところが獨逸帝のお陰で世界の大勢は
無辜の者が四年二ヶ月間牢獄に繋がれた犠牲の賠償を得べき好機を齎らし、我時來たれりと、貧乏生活の遣り繰りで本誌を發行するに至ったのである、これだけは充分の御諒察があつて欲しい


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